植物園のはじまり
大都会東京の新宿御苑内部の植物園、臨海部の葛西臨海植物園、京都の京都府立植物園。
今日都会の中のオアシスとして当たり前のようにある植物園は、もとを辿れば中世ヨーロッパで薬用価値のある植物を栽培する医師や薬屋によって管理されていたフィジック・ガーデンが起源である。
植物園の構想は瞬く間にヨーロッパ全土に広まり、1544年にはイタリアのピサに、医師であり植物学者でもあったルカ・ジーニによって、薬用植物の研究と教育に使用される最初の大学植物園が設立された。
大英帝国における植物学と植物交流の重要な中心地として機能していたロンドンのチェルシー・フィジック・ガーデンなどは、現存する世界最古の植物園の1つとして今でも訪れることができる。
1673年にできたこの薬草園は5000種類の植物を擁しロンドン薬剤師協会によって設立された。フランス絶対王政や日本で言えば江戸幕府前半の頃の話である。
「近代分類学の父」として知られる、このウェブサイトでも名前をよく出している、スウェーデンの偉大な博物学者カール・リンネは、1787年似できた8000種の植物をもつウプサラ大学の広大な植物園の教授として、その革命的な考えに磨きをかけ何世代もの植物学者に影響を与えたといえる。
観るだけじゃない、植物園の様々な役割 研究、植物保全、アート
世界の植物園で見られるユニークな施設は、1848年以来ロンドンのシンボルとなっているキュー王立植物園のパームハウスや、カリフォルニア科学アカデミーの最先端グリーンルーフなど、さまざまな気候を再現するために設計された複雑なガラス温室構造など多岐にわたる。
ちなみに世界中の植物園の代表ともいえる、英国のキュー王立植物園は、2009年に分類学者と系統分類学者の人員削減を決定した。この決定は、伝統的な植物学的知識から分子生物学や遺伝子研究へと向かう植物学界の世界的な潮流の表れであるともいえる。しかし同時に植物園がその歴史的ルーツと現代科学の要求の間で維持しなければならない難しいバランスから一部批判を浴びた。
植物園は希少種や絶滅危惧種の人工飼育を中心に、植物保全において重要な役割を果たすことができる。例えばキューにあるミレニアム・シード・バンクは、2020年までに世界の植物種の25%を保護することを目標としている。
芸術と科学のヒュージョンのような試みもある。ニューヨーク植物園が毎年開催するラン展では、何千ものランが咲き誇り世界有数のフラワーデザイナーたちによって見事な展示物にアレンジされている。ミズーリ植物園のランタンフェスティバルでは、植物や動物をかたどった何百もの実物大のランタンが夜を彩り、植物学と芸術性の融合が訪れる人々を楽しませている。
キューガーデン 世界一の植物園
植物園といえばここという施設がイギリスの王立キューガーデンだ。自分も行ったことがあるが種類もおおよそ70000種と途轍もなく多い上に、公園としての居心地もよい。今はどうなっているかわからないが空いている公園に貴重な植物コレクションがちりばめられているような施設であった。
コレクションを見るのも楽しいし歩いていても飽きが来ない庭園だともいえる。
歴史的には、1759年にジョージ3世の母オーガスタ王女が宮殿の庭園として造園したのがその始まりである。
そしてその後ジョセフ・バンクスという、あの有名なキャプテン・クック船長の航海に同行した人が管理者につく。この彼が世界中から珍しい植物を集めてきたことで英国の植物園の一大拠点となったのだ。
ユネスコ世界遺産 キューガーデンは植物学、園芸学、庭園デザインへの貢献が認められ、ユネスコの世界遺産に登録されている。
ミレニアム・シード・バンク キューガーデンは世界最大級の種子保護プロジェクトであるミレニアム・シード・バンクを所蔵している。このプロジェクトは世界の植物種の25%を保護することを目指しています。シードバンクとは種子銀行という意味である。生物多様性の保全のためだけではなく、食料の安定供給や医薬品開発のためといった視点もここにはある。
歴史的建造物 パームハウスや温帯ハウスは、現存する世界最大級のビクトリア様式のガラス建築である。
植物研究 単なる観光名所ではなく、植物分類学、生態学、その他の関連分野で多くの科学者が研究しており、植物研究と保全の中心地でもある。
ベルリン・ダーレム植物園
ダーレム植物園はベルリンということもあり、第二次世界大戦中には大きな被害を受けた施設でもある。しかしその後修復され現在では世界で最も多くの人が訪れる植物園のひとつとなっている。キューガーデンを抜けばヨーロッパで最も有名なのはこの植物園だろう。
地理的レイアウト アルプスからヒマラヤまで、一度の訪問で歩くことができる。
博物館 園内には約25万点の植物標本を収蔵する博物館があり、植物の生態や進化に関する教育的展示を行っている。
温室 ベルリン・ダーレム植物園には、世界最大級の大熱帯ハウスを含むなんと16以上の温室がある。これらの温室は、様々な植物種を維持するために多様な気候を維持している。
薬用植物園 園内には薬用植物に特化したエリアがありさまざまな植物が伝統医学や現代医学でどのように利用されているか、教育的な見識を提供している。
意外な歴史的背景 17世紀に設立されたこの庭園は、もともと王宮のキッチンガーデンとして造られた。その後、世界で最も重要な植物園のひとつへと発展した歴史を持つ。
世界の有名植物園の雑学 ゲーテも訪問
アメリカのアトランタ植物園は長年にわたって夏のコンサート・シリーズを主催。緑豊かなキャンバスを背景に音楽を楽しむというユニークな場を提供してきた。
多くの植物園が地元の大学や研究機関と提携し、教育や研究のための生きた実験室として機能していることを知らない人もいるかもしれない。そうした大学付属の植物園で有名なのがニューヨーク州イサカのエリート大学であるコーネル大学付属の、コーネル植物園である。
アジアに目を移すと、こちらはユネスコの世界遺産に登録された熱帯植物園であり、82ヘクタールという広大な敷地と150年以上の歴史を誇るシンガポール植物園。植物の保護、植物学的研究、レクリエーション活動が調和して統合された場所である。
しかし今有名ななのはこちらかもしれない。
近年できたシンガポールの有名観光施設、Gardens by the Bay Singaporeだ。最早テーマパークである。
植物園の緑地は二酸化炭素排出量を相殺し、木々は木陰を提供して都市の暑さを軽減する。
インド、バンガロールに早くも1784年にできたインド最古のラルバグ植物園のように、賑やかでしばしば灼熱の都市で重要な涼み場として機能する植物園は、気候が変化する中でこうした空間の環境的重要性を表していると言えるだろう。
ちなみにラルバグ植物園はイギリスの影響でビクトリア様式のガラス温室を持ち、バンヤンという木が名物だ。バンヤンはイチジク属の植物なのだが巨大な幹の木である。大型のものはまるで遠くから見ると巨大マッシュルームのような見た目である。
オーストラリアのアデレード植物園では、多様な植物だけでなく、鳥、コウモリ、ポッサムなどの野生動物も観察することができ、ミニ・サファリのような雰囲気で、生態系におけるすべての生物の相互関係を強調することができる。こちらもやはりイギリスの影響でビクトリア様式のパームハウスを持つ。
1545年にはでき世界遺産でもあるアカデミックな植物園、イタリアのパドヴァ植物園はナサニエル・ホーソーンの短編小説「ラパッチーニの娘」に登場するラパッチーニ博士が彼にとって致命的な植物を育てていた場所としても有名である。
ここのヤシの木はあの小説家のゲーテが来て感銘を受けたとも言われる。(ちなみに、ドイツやイギリスの人などは離れていると思われるかもしれないが、歴史的に昔からイタリアによく旅行に行くことが習慣のようにある)
もちろんアフリカにも有名な植物園はある。南アフリカのケープタウンのテーブルマウンテンの麓にあるカーステンボッシュ国立植物園。
そこのソテツのコレクションは希少な古代ソテツであるエンセファラルトス・ウッディと同属で現存する唯一の種だ。他に南アフリカの国の花ことプロテアもある。(乾燥に強い、中心がこんもりした蓮のような見た目の花である)位置が位置だけにアフリカ南部の固有種も多い。